いい香りとともに遠方に現れた船影は、紛れもなくサンジのケーキの到着だった。
ナミが戸惑っていたのは、それがベッジの船に乗って現れたからだったようだ。
シフォンが手伝っているのだから、一時的にベッジが協力していることに何ら不思議はなさそうなものだが、ナミが戸惑ったのはおそらく、ベッジの船が「前から」「ケーキを載せて」現れたこと。
サニー号とほぼ同じ時刻にホールケーキ島を出たはずのベッジの船が、なぜケーキを載せて前方から現れたのかが、理解できなかったのだろう。
ナミたちがルフィとカカオ島での合流を約束したのが15時頃。ママと大艦隊に追われながらなので、最短距離を進むことはできなかっただろうが、サニー号はそこからカカオ島まで10時間の逃避行を予定していた。
しかしベッジの船「ノストラ・カステロ号」はわずか3時間で、18時にカカオ島に到達した。ベッジの船の仕組みを知らないナミが驚くのも無理はない。
その後は、サニー号がカカオ島まで残り3時間半の現地点まで、カカオ島から同じく3時間半で到達しているが、これはカカオ島を出る際にオーブンにパドルを破壊され、帆走による航海だったからだ。
帆船の3倍以上というパドル船の速さに驚きである。赤く塗られているのかもしれないな。(1時間とかけずにカカオ島まで飛んだラビヤンの速度も大概だが…)
少し余談になるが、
ナッツ島は、プリンの書いた地図によると、ホールケーキ島のサニー号停泊地点からカカオ島への直線航路よりも右手に位置する。これはサニー号が追手を避けながら走っているためか、ナミが海流を読んで選んだ「より早く走れる」ルートなのか、のいずれかだろう。とにかくサニー号は最短距離を直進していない。
ベッジの船と当たり前に落ち合うことができたことに、奇跡を感じる僕である。
〜閑話休題〜
サンジとプリンを降ろしたベッジの船は、サニー号と別のルートへ逃走した。ママは当然ケーキが乗ったベッジの船を追うが、暗殺を企てたベッジなら、ケーキに毒を入れているに違いない。そう考えるペロスペローは自分たちの「詰み」が頭をよぎる。
麦わらの一味は逃げる先が分かっているし備えは万全だ。そもそもケーキを追うように仕向けたペロスには、長男の立場としてもママとともにケーキを追い、今は決断を先送りにしたが、ケーキをママに食わせるべきか、ケーキを破壊するべきかを随時判断しなければならないだろう。
ここで気になるのは、ベッジが囮を買って出たことだ。
ケーキに毒を入れることは認めない。食いてェ奴には食わせてやるのがコックの仕事。と言ったサンジの言葉に容易く感化されるベッジではないはずだが、実際に口にしたクリームの説得力や、愛する妻シフォンの命懸けの恩返しに感じ入ることはあったのだろう。
しかしそれと同時に、やはり「情」に対するスタンスの変化が、ベッジの中に起きていることは明らかと思える。これも、少なからずルフィの「人を惹きつける力」の影響なのかもしれない。
その頃、鏡世界でカタクリとの戦いに劣勢を続けるルフィだったが、
疲弊の中にもめまぐるしい成長を見せるルフィの「見聞色の覇気」に、一方のカタクリは脅威を覚えていた。
ところが、トドメを焦るカタクリの攻撃が、突然ルフィに命中!脇腹をえぐったように見えるが、どの程度の損傷かはまだ不明。
満身創痍の中、メキメキ成長する「見聞色の覇気」で、辛うじてカタクリの攻撃の被弾をギリギリのラインで留めていたルフィだったが、それをできなくしたのは
遠方からの狙撃、カタクリの敗北を許さないフランペの仕業である。
「プスッ」というSEからは、足の腱などを斬られたような印象は受けないので、神経毒か何かの疑いが強い。
多くの毒に耐性を持つルフィの脚を利かなくするほどの効果があったかどうかはこの際置いておいて、ギリギリでなんとか持ちこたえている状況に、不意に意図せぬ負荷が加えられたら、そりゃあ集中力は途切れるし、回避行動の精度が落ちるのは当然だ。
はたして、カタクリはこの好機をどう捉えるのか。
カタクリのことだから、フランペの狙撃に気付いていないはずはない。戦士としての矜持があれば、妹の卑怯な助力による致命打を由とはしないハズだが、それならフランペが何度も狙撃を試みている時点で「余計なことをするな」とかなんとか言うだろう。
もしくは、自分のプライドよりも国の威信や家族での勝利を重んじるのであれば、この「苦戦」を甘んじて受け入れることもあるかもしれない。
しかし、自堕落な食事作法を家族にもひた隠し、自分で言ったわけではないとはいえ「生まれてこの方、地に背を着けたことがない」などという大嘘の伝説を否定しないカタクリが、そんな漢らしい奴だとは僕にはとても思えない。
出口となるカカオ島唯一の鏡はオーブンの部隊に包囲され、ギリギリの応酬の中手痛い致命傷を負ったルフィに明日はあるのか。
それにしても、ナミさんLOVEをこれでもか!と体現するサンジ。
これはナミに対してだけではなくサンジにとってはいつものことなのだが、サンジに夢中のプリンはそんなこと知らない。
869話で、ナミを抱きとめ微笑み合う二人を無言で見つめるプリンのカットが意味深ではあったが、ここまであざといと、すべて終わった後にプリンがサンジへの想いをどう決着つけるのか、への布石となっているように思えてならない。
一部では、プリンは歴史の本文解読のカギを握る「三つ目族」の末裔として、仲間になる可能性を疑われているようだが、まさかそんなことにはならないと僕は考えているので、プリンの最後の決断が「悲しい話」にならないことを祈ってやまない僕なのである。