いったいどういう経緯でそうなったのか、大名たちの前で公然と父将軍スキヤキがオロチを後継者に選んだのであれば、本来おでんに異議を唱える資格はない。
おでん自身もそれを辨えているからこそ、頭に「?」をたくさん付けながらも、ワノ国の現状を苦々しく思うよりほかにすることがなかった。
しかし、度重なる暴政に耐えかねた錦えもんたちが花の都に詰め寄ったスキに乗じて、オロチが光月家の跡取りであるモモの助の命を狙い、そのせいでトキが傷ついたと聞き、おでんはブチ切れた。
愛する家族に累が及んだから、という私的な理由で特別に怒りが込み上げたのではない。
オロチは、かつて将軍家の跡目候補を暗殺していた黒炭家の血筋であり、それが今また将軍家の正統なる跡継ぎを卑怯な手で殺そうとしたからだ。
そのオロチが、仮染めとはいえ将軍職に就いていることの異常性。
どうやって康イエやスキヤキに取り入ったのか見当もつかないが、「おでんの弟分」という明らかな虚言を弄していること。
そして、事実として民が悪政に苦しんでいること。
私欲と私怨で暴虐の限りを尽くすオロチ、討つ以外の沙汰はなし。
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問答無用でオロチに斬りかかったおでんの刀は、
だが、見えない壁に阻まれた。「バリアー」だ。
オロチを補佐するくだんのババァと琵琶法師、彼らもまた黒炭一族の生き残りだった。
琵琶法師:黒炭せみ丸は「バリバリの実」の能力者。ババァ:黒炭ひぐらしの「マネマネの実」と同じく、おなじみの悪魔の実の”先代”能力者ということになるんだろうか。
さて、
「マネマネの実」のときは、あぁ…ボンちゃんの先代能力者なんだな、と理解し、とくに疑問に思うことはなかったんだが、今回、僕は少々違和感を覚えたのである。
「マネマネ」は人を信じさせて騙すのに最適だし、我々読者もその効力をイヤというほど知っている。あの段階で詳しく説明できないひぐらしの暗躍を描写するのに効果的だった。
しかし、今回のせみ丸に関しては「バリバリ」である必要性が果たしてあったのか。
いや…、技術や鍛錬、怒りや根性ではどうにもならないとおでんに理解させるのには適しているか…。
25年前のことだから、バルトロメオは生まれてないし、ボンちゃんもまだ子供。先代能力者で間違いないと思うんだけど、なんだろう… そこはかとない違和感があるんだよなぁ。
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もうおでんの攻撃に怯える必要もない、と覚ったオロチが語りだす。
大名たちが実際に見たスキヤキ、聞いた言葉が偽りだったことを明るみに出せば、オロチを失脚させることもできそうなものだが、おそらくはもう遅い。将軍という唯一絶対君主を頂くワノ国の政治のしくみは、現代の合議制や議会制民主主義とはほど遠く、権力者本人の意思以外では何も決まらない。大名が束になってもが将軍を裁くすべは無さそうだ。
今さら世間に真実を暴露しオロチを糾弾したところで、反オロチの動きを叩き潰す体制もできてしまっている。オロチが実権を握ってしまった今となっては、武力で討ち倒す以外にオロチを失脚させる手段はないにも関わらず、国民は武器を持つことを許されていない。
せっかく手に入れた将軍の地位を、奪い返されないために慎重に慎重を重ねた結果、必要以上の恐怖独裁政治ができあがった。
ごく一部の選ばれた人間だけを富ませるために、それ以外のほぼすべての民を飢えさせ、ウソの教育で自分を英雄神格化、軍事力だけが交渉のキモなので、その驚異をことさら強調して世界政府をも脅しにかかる。まるで現実世界のどこかの半島国家を見るようだ。
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結局バリアで護られたオロチを斬ることは叶わなかった。そればかりか・・・
オロチの城の前で、裸でおどけていた。それも週に一度を毎週毎週。
国中の最後の希望だったはずのおでんの醜態は、国民を大きく失望させ、おでんは「バカ殿」と呼ばれ蔑まれた。
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ワノ国は変わらずの地獄。おでんも裸おどりをひたすら続けて実に5年、
久里にやってきたオロチに、何らかの約束を反故にされた(っぽい)おでん。そして、ワノ国の裏の顔、ヤクザの総元締め:花のヒョウ五郎親分が捕らえられ、カイドウに引き渡され、その際に子分16人とヒョウ五郎の妻が殺されたと聞き、ついにおでんが5年間抑え込んでいた感情に火が灯った。
筆頭家臣の九人は戦い勇んでそれに続く。夕日に照らされた彼らを人々は後に「赤鞘九人男」と呼んだという。
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いやぁ、盛り上がってきたよ!ここから先はノンストップ。
結果はすでに決まっている。おでんは公開処刑、九里のおでん城は炎上、赤鞘九人男は行方不明に。
何が成されて、何が失敗に終わるのか。回想編もクライマックス、もう目が離せないね。
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さて、5年もの長きに亘り、信頼も尊敬も自らのプライドも捨てて「バカ殿」を演じてきたおでんの堪忍袋が、ついに臨界点を突破した。
5年前オロチの城に飛び込んだときに、どうやら、おでんはオロチと何らかの「不平等な契約」を結ばされていたようだ。
単純に考えると、人質を取るなど弱みを握られたか、おでんの望みを叶える確約を貰ったか、引き換えにオロチの治世に決して逆らわずに「バカ殿」に徹していろとでも命じられたのだろう。
カイドウに手配して外遊船を手に入れてやるって…?、いやいや、そんな「物」欲しさにクズ権力に阿り、民の期待を裏切るおでんではない。船とはいったい何だ!?
果たしておでんはいったいオロチと何を約束したのだろうか。
ようやく感情爆発! 非道なるオロチ許すまじ! なのだが、なぜだか、討ち入る対象はカイドウ。
「竜の威を借るただのヘビ」であるオロチ打倒の最大の障壁がカイドウであることは疑いもないが、ここは最も憎く、爆発する感情をぶつける相手はオロチじゃないのか。
ま、カイドウを倒し、百獣海賊団がいなくなれば、オロチとその周辺の勢力は恐るるに足らずってことなんだろうけど、意外と冷静なんだな。