20年越しの雪辱戦に、ようやく光月家の戦線に復帰したイゾウ。
今回は、イゾウについての大きな疑問について書いてみよう。それは・・・
イゾウの武器はなぜ2丁拳銃なのか?
幼い頃はまだ小さい菊が銃を持っていたこともあったが、イゾウは普通に刀を振るっていた。
いつの頃からか、菊はワノ国一の美青年剣士と称えられるまでに成長し、一方で、おでんを追ってワノ国を出るまでは刀を差していたイゾウが、白ひげ海賊団の隊長として登場して以降は、剣を振るう様を確認できていない。(剣を持ってるカットはある)
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鎖国された神秘の国「ワノ国」の、伝説の戦士「侍」。
外海に出れば、その独特の文化形態や戦闘法は大いにヒキがあっただろうし、いろんな意味で戦力として貴重だ。
そんな環境で、刀を捨て銃を常用する変化の意味するところは、決して軽いものではないはずだ。
たとえば、かの坂本龍馬は、それまでの日本になかった新しいモノや画期的なシステムに「未来」を見出し、古い体質のままの日本ではダメだと奔走した。言葉や文化の異なる相手とも”WIN WIN”となる関係構築こそが未来志向と信じ、敵勢とも手っ取り早く講和の段取りに入るための「示威」として、拳銃を懐に携帯していることをアピールした側面もあったという。
だが、龍馬とて刀を生涯手放すことはなかった。それは、龍馬の活動の拠点はあくまでまだ日本であり、話をまとめる相手もまた二本差しだったから同じ境遇に身を置く必要があったという面もあろうが、龍馬にとって信頼の置ける最強の武器は「刀」に他ならないからだ。
そこでイゾウは…といえば、白ひげ海賊団の16番隊隊長として、部下を率いて世界中の海から海を渡り歩く都合上、より強くより合理的な戦法が求められたかもしれない。
陸上の乱戦ならばともかく、海上でまだ距離のある敵船と戦がはじまるとしたら、銃砲がより有効と判断する向きもあるだろう。
自分ひとりの強さよりも、集団で戦う合理性、そしてその集団を率いる責任感が、イゾウを銃による戦法により傾倒させたかもしれない。
なるほど銃を使うのはいい、とはいえそれは、刀を捨てるまでの理由にはならない。
イゾウにとって、刀を捨てるということは「侍」の矜持を捨てるということ。それはつまり、おでんの家臣という立場との決別を意味する。
イゾウたち赤鞘の侍たちは、ほぼ全員がもともと武家の生まれではない。彼らはおでんのためだけに「侍」となったのだから、彼らにとって「侍」をやめるとはそういうことだ。単純な意趣変えなどでは決してない。
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当初おでんの単なる随伴で、行きがかり上乗っただけの白ひげ海賊団の船。
おでんがロジャーの船にレンタル移籍した際は、おでんの帰りを待つといい白ひげ海賊団に居残ったイゾウ。
その後、ロジャーは偉大なる航路を制覇し、海賊団を解散。おでんもワノ国へ帰還した。
ワノ国のことを外海で知るすべがなかったとしても、ロジャーが冒険の旅を成功させて一味を解散させたのだから、おでんが戻る先は白ひげ海賊団かワノ国しかない。
イゾウにはいつでもワノ国へ帰る機会があり、主君おでんがすでに帰国していることは想像できたはずなのだ。しかしイゾウは帰らなかった。
おそらくは彼の中で「おでんよりも白ひげの存在が大きくなった」ということは無かったと思いたいが、たとえば個人的にできた大きな恩を白ひげにまだ返せていないと感じたのか、その頃から白ひげの体調が悪くなり離れるに離れられなかったのか、なにか事情があったのだろうと推測する。
だが、そうこうしている間に、おでんがオロチにどんな目に合わされていたかも知らず、おでんの決意の決戦に駆けつけることも、最期に立ち会うこともできなかった自分を、イゾウが許せたとは思えない。
おでんに仕えるためだけに「侍」になった。おでん亡き今、そしておでんの最期にその場で意思を継承できなかった以上、もはや「侍」で居続ける意味はなくなった。いや、むしろ「侍」で居続ける資格が、もう自分にはないと感じて、刀を捨てた。
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・・・・
と、イゾウの気持ちと事情を、勝手に慮ってみたんだが・・・
あれあれ・・・?
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おでんがロジャーの船にレンタル移籍するとき、イゾウすでに銃使いになってたわ。帯刀すらしてねェ!
ぅおー、マジか・・・
ってことは、おでんがロジャーの船に移る時点で、イゾウの心はおでんよりも白ひげにあったことになる。
死ぬ前に白ひげと会うと言うロジャーに、イゾウへの伝言を頼んでいるので、おでんもイゾウの気持ちに気づいていたってことだ。
「あの船に馴染んでた」どころじゃねェ。このイゾウの完全な宗旨替えには、僕は違和感を通り越して不快感を覚える。
966話のレビューでも書いたとおりだが、ロジャーから同乗者の人数を制限されたわけでもない、おでんが来るなと言ったわけでも、白ひげの船で為すべき役割を与えられたわけでもない。
もともとイゾウは、おでんを止めるための目付役として同乗していた。
出会ってたった4日のよく知らぬ海賊の船、しかも前人未到の危険な航海に、細君跡取りとともにおでんが旅立つというのに、本来の任務そっちのけでイゾウが残る理由が「この船が好きだから」だと? 意味がわからん。
ただでさえ、イゾウは「鈴後」の出身。「鈴後」の人々は刀とともに生き、死ねば愛刀を墓標とする風習を持つ。
刀を銃に持ち換えたのが、ワノ国での対人戦闘ではなく海上での組織的戦闘に順応するためだったとしても、本来ならば刀を捨てるはずなどないのだ。(・・・あぁ、おでんと出会ったのが「鈴後」だっただけで「鈴後」出身とは限らないか。
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まぁ、とにかく「ケガで二度と刀を振れない身体になった」とかでないならば、イゾウなりの、ただならぬ決意があったはずだ。それを知らずには、もう収まらなくなってきた。本編じゃなくてもいいので、SBSかどこかで解説してくれねェかなぁ・・・
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それはそうと、
上で坂本龍馬を喩えに出したが、イゾウもまた、閉鎖されたワノ国と異なる文化に触れ、それを積極的に取り入れた先進的思考の持ち主だったというなら、「イゾウ」という名前は、なんとも皮肉だと思わずにいられないな・・・。