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ONEPIECE 986「拙者の名前」


鬼ヶ島、ドクロ城の裏口には、おでんの筆頭家臣たちが勢ぞろいしていた。
そこには、おでんの旅に随伴する内に白ひげ海賊団に寄る辺を移したイゾウ、そして、オロチの野望の尖兵として最初から仲間を演じていたカン十郎も含め、総勢十人。


まだ「赤鞘の侍」と呼ばれる以前の、貧しく愚かでも、真っ直ぐで楽しかった旧き良き時代が蘇る。


最後に合流した錦えもんと傳ジローが見たものは、すでに骸とおぼしき、血を流して倒れるカン十郎の姿。
何十年と苦楽を共にし、相互に信頼していた(と思っていた)カン十郎との辛い決別を経た仲間たちを労うも、もはや錦えもんはカン十郎に声をかけることもない。編み笠で死に顔を隠してやることがせめてもの情けなのだ。

カン十郎はまだ死んでない可能性がもちろんある。この亡骸が「絵」ではないとなぜ思えるのか? まぁ…キャラクター増えてきたし、カン十郎の話はこれ以上掘り下げなくてももういいかな…って思うので、ここで死んでても別にかまわないけど…。

むしろ、前回ラストで、カン十郎と斬り結んだ菊との間に、なにかやり取りがあったのではないか…と勘ぐってみる。

オロチ側の人間とまでは言いたくないが、菊もまた、赤鞘内部の叛抗者である可能性はないだろうか。
たとえば、たったひとりの兄イゾウを連れ帰ってくれなかったおでんに対して不信感を持ち、同時に、侍の責務を放棄して海賊になってしまったイゾウにも失望し、複雑な感情を抱えたままいつの間にやら身長で兄を超え、剣の腕も、ワノ国中に轟く名声も、女形舞踊の立ち居振舞いでも、何ひとつイゾウに負けぬレベルにまで成長できたのは、ネガティブな感情からではないかと思ったり…

その頃、宴の間では、カイドウが新鬼ヶ島計画の説明を淡々と進める。オロチの配下だった侍たちはどうするのか?


福ロクジュは5千人のお庭番衆を率いて、速攻で寝返った。5千の侍を率いるホテイも然り。

まぁ… 福ロクジュは、そもそもスキヤキからオロチに鞍替えした過去がある。
正義とか悪とかではなく、「忍」とは掟と主君の命にのみ疑いなく忠実で、あらゆる私的な感情を押し殺し、素早く冷静に任務を遂行するもの。恩だとか縁だとかに縛られることなく、主君の死に際して、何が一番最適かを冷静に判断した結果なのだとしたら、責めることはできないかもしれない。
しかしホテイはどうかな。
「見廻組」ってのは、治安維持隊みたいなものだが、見た感じ浪人の集まりの愚連隊だ。感情や損得勘定に大きく揺さぶられると思うがね。

余談だが:
福ロクジュホテイとくれば「七福神」だが、他にもいるのかね?
ふたりだけだと、なんとも中途半端だが、あと5人出てくるとも考えにくい。しかも「エビス」ってのはおこぼれ町の通称で使っちゃったしな・・・。


カイドウはモモの助に今一度訊ねる。
お前の名は?

痛みと恐怖の中、改めて自分という存在を確認するモモの助。
自分は何者だ? 父親があまりにも偉大だったというだけの8歳児には身に余る期待と重圧。安泰なレールは敷かれていない。進むとすれば茨の道どころではない地雷原だ。

だが、進む道の正当性は間違いがないし、それによって多数の犠牲を払おうとも、救われる者がそれ以上に存在する。


ここまで旅を共にしてきた若者は、将来自分が世界の海の覇者になることを疑わず、実際強く、この悲願こそ大きいが運命と周囲の期待に翻弄されている8歳児を「ダチ」と呼んでくれた。

モモの助という名前は「天下無敵」の意味を込めて送られた父おでんの願い。
自分もルフィのようになりたい。何者にも怯まない、父の名を継ぐに相応しい男になりたい。


自信など皆目ないし、肚が括れたわけでもない。怖くてたまらないし、涙が止まらない。
だが、いかに無謀で無様であろうが、モモの助はおでんの子であることを偽ることはできなかった。



おでんの息子でないなら処刑の必要はない。その場逃れだろうと、おでんの息子ではないと言うなら見逃してやると言ったカイドウの言葉は、別に見世物にしてモモの助を侮辱しているのではない。

おでんとの戦いに卑怯な手で水を差したひぐらしババァを始末したことからわかるように、カイドウはある意味まっすぐな男。自分の強さひとつを頼りに生きてきた。歯向かうものは力でねじ伏せ、使える者は部下として積極的に徴用した。そこに慎重さを感じないのは、そいつが何度反抗してきても返り討ちにする自信があるからだ。

光月家に恨みを持ち、復興を恐れていたのはあくまでオロチであり、カイドウにとっては光月家は脅威ではない。得たかった情報が得られないと分かった今、家名を残す理由もない。
ただ、オロチが蔓延させてしまったワノ国の幻想と「光月家」というレジスタンスの芽を、この国が「ワノ国」ではなくなる新鬼ヶ島計画に際して、きちっとケリを付けたかったのだと思う。

衆目の前で名を偽ればモモの助ひとりの命は助かるが、それは「光月家」の敗北宣言に等しいのだ。


一世一代の勇気を振り絞って「光月」を名乗り、ワノ国の継続を宣言したモモの助に「ちーん」って感じで絶句するカイドウの反応は少し意外かも…。
勝ち目のない勝負に逃げ道まで用意してやったのに、まだ世迷い言を言い、しかもたまらず泣き出すおまけ付き。
カイドウにとってどうでもいいはずのガキひとり。「ここまで譲歩してやってるのにまだ言うか」的な「ヤレヤレ感」を醸し出している。問答無用でブチ殺して「ハイ終わり」では済まない事情があるのだろう。
カイドウ個人が子供をいたぶるのが好きじゃない可能性もあるが、今のモモの助と同い年の実の娘に爆弾背負わせる男がそんなセンチかというとかなり疑問だ。
やはり、オロチ配下の残党をまとめる上でも、この場で公式に「光月家」との禍根を断つ必要があったということかな。


さて、その場に突然起こった謎の大爆発は、ヤマトの腕の錠に仕掛けられた爆弾が、ルフィによって破壊されて起こったもの。その爆風とともにルフィとヤマトは宴の間に到着したが、決戦の火蓋を切ったのは・・・


赤鞘の侍たちの、すべてを懸けた渾身の一撃!



カイドウは、その凄みに20年前のおでんを見た。

かつて唯一傷をつけられた天下無双の侍。カイドウが脅威に感じたのは「光月家」ではなく、「おでん」だったのだ。
今その意志が九人の侍に乗り移ってカイドウを襲う。はたして彼らの刀はカイドウに届くのか。

ところで、


戻ってきたイゾウとガッチリ手を組む錦えもん。
この二年の間に、同門のエースを救えず、オヤジ白ひげを失い雪辱も果たせなかったイゾウに対し「ここでいいのか?死に場所は」
イゾウの覚悟をよく理解したいいセリフだ。

だが裏を返せば、かつてのイゾウが命を懸ける対象として、やはりおでんよりも白ひげを選んでいたことの証だな、これは。

まぁ・・・20年前から飛んできた錦えもんが、2年前の頂上戦争の詳細を知っていたとは思えないがね。ルフィからその場でのイゾウの存在を聞いたとも思えないしな。イゾウが「死に損なった」ことは、錦えもんはどうやって知ったのかな。

あとね、僕が地味〜に気になるのはサンジの存在。
遊女を求めて単独行動をしているサンジだが、エネルの方舟然り、エニエスロビーの正義の門然り、こうしてひとりで姿をくらましている時は、あとでその時何をしていたかが大きな功績になりそうな予感。
今回ばかりは、サンジの「一点の曇りもない下心」が凍りついた女心を溶かすことはなさそうだもんな。

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