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ONEPIECE 994「またの名はヤマト」


カイドウの放った真空の刃に左腕を斬り飛ばされた菊は、錦えもんの狐火流で傷口を焼き、止血しただけで、即戦線に復帰。
絶対に目的を成し遂げる決意と、そのために死を厭わない覚悟、単純で真っ直ぐな「侍」をカイドウは好きだと言う。
ロジャーも白ひげも、目的を成し遂げ、その後明確な成果を後世に遺して、潔く散った。


死は人の完成
「自分も最期はそうありたい」と考えているとはとても思えないが、主君への忠義に殉ずることは、讃えられる「死」であり、お前らは立派に闘ったから、もう死んでも誰も文句言わないぜ、と人間体に戻ったカイドウが言う。

違うね。
腕一本失っても怯まない菊の覚悟は、決して「いつでも命を投げ出す覚悟」ではなく、どんなに無様であろうとも、這いつくばっても、泥をすすっても、必ず目的を達成する「その為なら何を失っても構わない覚悟」だ。
その辺り、カイドウは分かっていないのか、それとも知ってて戦略として言っているのか。…後者だよなぁ。


その頃、地下一階のライブフロアでは、クイーンが放ったタチの悪い疫災弾のせいで、身体が凍り、鬼となって無差別に周囲の人間を襲う伝染性のウイルス「氷鬼こおりおに」が蔓延しはじめていた。


このくだりは物語の本筋の中では大して重要ではないと先週まで僕は考えていたんだが、屋上を目指して先に進んだルフィ、サンジ、ジンベエと、ナンバーズを外におびき出したフランキー、うるティ・ペーたんと鬼ごっこ中のナミ・ウソップを除く3名と、有志の侍ほぼ全勢力がこのフロアで60分一本勝負のデスバトルロイヤルだ。

その中には、さっきカイドウに忠誠を誓ったはずの福ロクジュ旗下の御庭番衆やホテイとその部下たちをはじめ(福ロクジュ本人はどこかへスーッと去ってたっけな)、最初から百獣海賊団の一員であるプレジャーズたちも巻き込まれており、容赦ないクイーンのえげつない性格が現れている。


事態は、ウイルスの血清を守り抜けとクイーンに命じられたアプーが逃げ、ゾロたちがそれを追う。一時間以内に血清を奪い、ワクチンないし治療薬を精製できなければ、敵味方の区別なく全滅も必至だ。敵方の勢力の仲間割れや、積極的に光月方に寝返る者たちがどれほど出てくるかで、その後の勢力図は大きく変わるだろう。
その中で、ドレークが何をするかも注目だわ。ウイルスが蔓延している間はフーズフーも降りてこないだろうしな。

あとこのフロアにいなかったのは、外にいたビッグ・マム、ペロス、マルコ、ペロスを見つけたキャロット、ローとキッドくらいかね。

で、今回のキモはヤマトだ。


最初の邂逅(ファーストインプレッション)が頬を赤らめてモジモジしながら「ぼくはおでん!」だったから、モモの助としのぶにとってヤマトは不審者以外の何者でもなかった。それを信用に足る(はずの)ルフィが「そいつは味方だ」とか言うから余計混乱するわな。

ここで、ヤマトの人物像…というか、今わかっていることを整理してみる。

名は「ヤマト」、カイドウの子である。
年齢は28歳、性別は女性だが「光月おでん」になるために「男になった」と言っている。肉体的な性別は現在も女のままであるように見えるが、実際どうなのかは不明。

・おでんの公開処刑の場にいた。
・その後、九里で「おでんの航海日誌」を拾った。
・8才のときから20年間、爆弾が仕掛けられた錠をつけられ、鬼ヶ島に監禁されていた。
・「光月おでん」になりたいと言ったら、父親カイドウにブッ飛ばされた。
・エースと戦ったことがある。
・ヤマト的に「ある意味ルフィの方が「おでん」かもな」この言葉の真意は不明。
・ルフィをずっと待っていた。
・エースの弟のルフィなら海へ連れ出してくれるかもしれないと考えていた。

「おでん」になりたいと言ってカイドウにブッ飛ばされたのが、いつのことかは明言されていないのだが、ただ憧れたのではなく「おでんになる」「誰かが遺志を継がなくては」との想いからの発言ならば、おでんの処刑に涙した後の話だろう。
時系列を考えれば、
公開処刑で強い衝撃を受けたヤマトは、おでんの足跡をたどって九里に出向き、そこで「航海日誌」を発見。日誌を読んでさらにおでんの生き様に憧れ「大切なこと」を知り、そのときおでんの遺志を継げる者は自分しかいないと考えた。
そして「おでん」になりたいとカイドウに伝えたところ、ブッ飛ばされて以後監禁された、って感じだよな。

性別については、「おでん」が男だから自分も男になったと言っているが、航海日誌で知った「大切なこと」を成し遂げるために男である必要があった可能性もあるのかも。
だが、「これからは女扱いをするな」とある日突然言い出した(であろう)ヤマトを、カイドウの部下が「ぼっちゃん」と呼ぶのはまだしも、カイドウが「息子」と呼ぶのは些か不自然だ。
これには、おそらくヤマトとカイドウ双方異なった思惑が交錯していると考えるのが自然だが・・・

跡継ぎとして「息子」が欲しかった(と仮定して)カイドウは、突然「男」になると言い出した娘に対し、その理由はいただけないので「おでん」になることは認めないが、「息子」にはなってもらおうと考えた。
または、「おでん」になるのも大いに結構だが、オロチとの関係上「光月家の火」は消さねばならないので、カイドウの真の野望にオロチが不要になるその日までヤマトを監禁しておく必要があった。ブッ飛ばしたのは、ヤマトがおでんのことを大して知らないくせに浮ついたことを言っていると思ったから・・・とかな。


ただ、20年前の公開処刑のとき男装していたので、その時点ですでに「息子」扱いだった可能性もなくはない。般若風の面は、目立ちすぎる「角」を面の一部と見せることで隠す(というか不自然でなくす)ためだったのかな。高貴な娘がお忍びで市中に出るために男装することもあっただろうし、ヤマトがいつ「男」を志したのかはいまいちハッキリしない。


そう。20年前の回想シーンに、ヤマトと同じ柄の着物を着ている人物が描かれていると以前から話題になっていた。頭身のバランスが大人に見えたので、僕はとくに触れないでいたんだが、どうやらあれがヤマト本人だったらしい。大人っぽく見えたのは「目の錯覚」ということにしておこう。


そのとき、ヤマトはしのぶの言葉に泣き、おでんの生き様に泣いた。
そしてモモの助を助けるために九里へ走った。それは、光月の血筋を絶やしてはならないという赤鞘たちと同じ想いを抱いたからに他ならない。だが、8才のヤマトには力がなく、カイドウに吊るされるモモの助を見ていることしかできなかった、自身の無力さを呪った無念を今なら晴らせる。


改めて名を聞かれ、自身の名「ヤマト」を「またの名」と答えた。
あくまで先に伝えた「ぼくはおでん」が通すべき名前であり、モモの助の為に死ねると宣言。

20年前からすでに縁あった謎の女(男?)。この命がけの行動と宣言に、モモの助の心は動くか。

さて、まだ気になる点がたくさんある。

まず、ヤマトは光月おでんという男に、どの時点で憧れたのか。
自分たちが人質に取られていたことを知らず、ひとり全てを背負いバカ殿を演じるおでんを蔑んでいたワノ国の民ならいざしらず、当事者ではない8才児ヤマトの心に、しのぶの激白やおでんの死に様が刺さりすぎていることから、公開処刑のその日に初めて「光月おでん」という侍の存在を知ったとは考えにくい。
それ以前におでんのことは知っていたのだろう。もっと幼い頃に、おでんに直接会っていた可能性もあるかもしれない。

また、公開処刑の日、赤鞘たちがおでん城に到着したのはカイドウが興ざめして去った後である。赤鞘たちは命を狙われ追手と戦いながら走ってきたとはいえ、8才児がそれより早く九里に到達し、カイドウに吊るされるモモの助を眺めていたのは不自然ではないか。
九里と花の都は、激怒に駆られたおでんが夜を呈して駆け続けるほどの距離がある。いかに邪魔するものがなかったとしても、8才児の足で赤鞘たちより早く到達できるものだろうか。
「君を助けるために走った」というからには、誰かに運ばせたわけでもないだろうしな・・・。


次にエース。
エースは4年ほど前にワノ国に来たらしい。「もっとでかい海賊団になってまた来る」と言っていたそうなので、スペード海賊団の時代で間違いない。ちなみに先日8才になったばかりのお玉のことを、当時5才と言ってるのは何かの間違いだと思うのだが、コミックスでも修正はされていない。


その時エースは、ワノ国の民の困窮具合を見て、もう一度来たときには何とかしてやるとお玉に約束している。

また、その数週間の滞在期間中にエースはヤマトと戦っている。ヤマトの信頼を得ているので、和解して打ち解けたはずだ。ヤマトは20年間鬼ヶ島に監禁されていたのだから、会った場所は鬼ヶ島しかない。エースは何をしに鬼ヶ島まで行ったのか。
そりゃ、ワノ国の困窮具合を調べて、その根源であるカイドウを倒しに行ったと考えるのが妥当だ。しかしワノ国の状況は何ひとつ変わらないまま、エースはワノ国を去った。
きっとそのときカイドウが不在で、エースはこれ以上長居ができなかった、もしくは、今のエースとスペード海賊団ではカイドウを倒せないと判断して、もっとでかい海賊団になって戻ってくるつもりになったのか・・・だな。

他所のサイトでは、酔っ払ってたカイドウをボコボコにして勝ったつもりで去ったという説も面白いのだが、「これでもう大丈夫」ではなく「次来たときに解決してやんよ」と言って去ったのだから、倒したつもり…はないと思う。
僕の結論としては、「エースとカイドウは戦っていない」である。
ヤマトとはそのときどんな話したんだろうな。

ところで、20年前に8才だったヤマトは、モモの助と生まれ年が同じ。そして今8才のモモの助はお玉と同い年。
この「同い年繋がり」って、後々なにかあると思うんだが・・・。


最後に、鬼について少し。

カイドウはワノ国の民に「明王」として祀られる立場でありながら、もともとワノ国本来の「明王」が祀られていた島を住処とし、わざわざ「鬼ヶ島」と変名した。
巨大な龍に変身するというそれだけで、人々にとってはとんでもない畏れの対象で、さらに「明王」を名乗れば、それはもう人間よりも完全に上位の存在であることを示しており、民を支配する上で有利なことこの上ない。
だが、そこにさらに「鬼」を乗っけてしまうと、「明王」のありがたみが薄れ、恐ろしさと嫌悪だけが増すことになる。神々しく崇め奉られるよりも、忌み嫌われながらも恐怖で支配することを選んだのはカイドウらしいと考えることもできるが、「鬼」を名乗るのは果たして恐怖を演出するためなのだろうか。

カイドウは巨大な龍に変身するが、人間体も普通ではない。巨大で強靭で角が生えていて、おおよそ「人間」と呼ぶことが憚られる姿である。ワンピ世界で人間の身長はいい加減だし、肉体の強靭さも何とでも言える。問題は「角」だ。
角が生えた(ように見える)人間は他にも登場したが、ハンニャバルは眉骨が変形しているだけに見えるし、マゼランの角は作り物だった。(他に誰がいたっけな・・・
カイドウの角が本物だとしたら、角の生えた人間なのだろうか。

僕はかねてから、カイドウの正体は、龍の悪魔の実を食べた「鬼」か、鬼の悪魔の実を食べた「龍」のどちらかだと考えているんだが、角がヤマトに遺伝しているのだとしたら、角は悪魔の実由来ではないことになる。
すなわち、カイドウとヤマトには生まれつき角があり、カイドウの正体は、龍の悪魔の実を食べた「鬼」という説が僕の中では濃厚だ。

角が生えた古代巨人族に虎ジマの腰巻きを穿かせ、部下たちには角のあるなしで組織内での立場の差異を明らかにする。懐刀のキチガイ科学者は鬼をテーマにした生物兵器を開発する。
百獣海賊団のいたるところに「鬼」の意匠が顕著なのは、カイドウのルーツが「鬼」だからなのだとすれば、いろいろと腑に落ちる。

カイドウを「鬼」としたことは、ワノ国の文化的な邪悪の象徴としてのアイテムだからに他ならず、オダッチとしてはワノ国編に鬼がいっぱい出てくることは最初から当たり前に考えていたことのはずである。

それこそ・・・、鬼滅の刃の連載が始まる2016年なんかよりもずっと前からね。

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