ベガパンクによる告発。
いや、まだ「告発」と決まったわけじゃないんだが、それは唐突に発せられた。
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おそらくは、ベガパンク本体ステラの心肺停止をトリガーとして自動的に再生されるように設定されていた、云わば全世界に向けた「ビデオレター」だ。
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それは事前に録画されていたもので、いざこれを公表する際には、どうすれば捻じ曲げられることなくより多くの人々に正しく伝わるか、思案を重ねる様子も収められていた。
…というか、それを考慮し忘れていたドタバタがそのまま収録されているということは一発撮りだったことを物語っており、撮り直しや内容の推敲をする余裕がなかったと考えれば、これから発せられるメッセージの重要性や火急性、またベガパンクの真剣味がよく伝わってくる。
より多くの人に観てもらうには事前告知と視聴者側の準備が必要。しかし時間をかけると、「映像を公開されると都合が悪い」勢力に妨害のための準備期間を与えることになる。
迅速に公開することを優先した結果リアルタイム視聴者数が伸びず、人やメディアを介した二次・三次情報や“又聞き”となると、内容の正確さを欠くばかりか、論点がずれたり都合よく切り取られたり恣意的に改竄される可能性も高まる。
もちろんその内容が全世界の人々にとってどれだけ重要なものか… にもよるのだと思うが、ベガパンクは、できるだけ早く、可能な限り多くのエリアの多くの人々に、全文を、リアルタイムで観て(聴いて)ほしいと考えた。(そうでなければ公開する意味がない…くらいの勢いで。)
この配信は、世界中に強固に張り巡らされた海軍の通信網をジャックして、強制的に流されている。
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さて、それではベガパンクがこの動画を用意するに至った経緯を考えてみよう。
これから告発される内容は、まず間違いなく世界政府を弾劾するものとなるだろう。
南の海の一般市民が云うように、それが仮に「世紀の大発明」だったとしても、それを海軍の回線をジャックして独自に発表するということは、政府の意向に沿ったものではない、すなわち政府がいわゆる“愚民”を統率する現状の社会構造の維持にとって都合が悪いものと考えられる。
新発明が関係無いならば、世界政府が隠蔽してきた闇の歴史や世界の構造に隠された真実を暴き告発する内容としか予測のしようがない。
それはベガパンクが歴史研究家でも革命家でもなく「科学者」であるがゆえの彼の正義なのだろう。
真実を解き明かすことよりも、巨悪を懲らしめ打ち倒すことよりも、彼は自分の命ある限り「科学者」として人類の発展に貢献する道を選んだ。
その命が尽きる時がきて、はじめてほかの領分に踏み込んだのだ。
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思えば、MADS末期のベガパンクは精神的に病んでいたと思う。
たった一対の目や耳や手脚と限られた予算・限られた時間の中では、湧いては尽きないアイデアや理論・法則の多くを完成できないジレンマを抱えたまま傍らに置き、そんな状況の中でも「血統因子」や「クローン技術」といった前人未到の「神の領域」に到達していたベガパンク。
世界の人々の発展にいかに貢献するか、そして同時に、ベガパンクの科学者としての「業」や「欲」を満たすには、裏社会の闇金王の財力では足りていない中、その頭脳と研究の危険性と有意性に目をつけた世界政府からのオファーを受けたのは、MADSの仲間( )たちとの方向性の違いや温度差などで軋轢が生じていたことも理由のひとつとなったかもしれない。
かくして政府の“お抱え”となったベガパンクは、無尽蔵の経費を使いそれまでできなかった大規模の研究や実験をできるようになった。
「ノミノミの実」の能力のせいで膨張し続ける「頭脳」は、ベガパンク生来の心肺機能では血流を維持できない大きさとなり、肉体と切り離してその健康を保全し、クラウドストレージとして管理されることとなった。
6体の分身を造って手脚の不足と多角的な発想力を強化し、様々な発明を積み重ねた。
そしてベガパンクは夢に見る理想のエネルギーを追求する流れで、古代の「機械兵」を動かした動力を研究する勢い、政府が禁ずる「空白の100年」の歴史に踏み込んでしまった。
政府のお抱え科学者となった当初は、やりたい研究にひたすら没頭できる理想の環境に夢中になっただろう。だがその内「空白の100年」を詳しく知ることによって、世界政府に対する不信が生じた。とはいえ科学者の本分を違えるつもりもなく、研究を続けられる限りは知り得た情報をどうするつもりも無かったのだ。
しかしそんな中
自分の命が狙われていることに気づいたベガパンクは、生き延びて科学者であり続ける方法を模索しつつ、それ以上続けられない事態になったならば「知り得た情報をどう使うか」という考えに至ったのだと思う。
旧知の友クローバー博士の無念と不名誉をはらい、今の自分と同じく政府に不信を抱くドラゴンの革命の一助となるかもしれない、政府がひた隠しにしてきた重大な秘密を全世界に向けて暴露しようというのだ。そうに違いない。
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いったい何が語られるのか分からないが、五老星はかつてない危機感を覚えた。
当人のベガパンク本体ステラが死亡し、現存するサテライトたちも麦わらの一味と一緒に逃げる準備中なので、サターン聖にはこの放送を止めさせる手立てがない。設備を破壊して力づくで阻止するしかないのだが、ルフィが立ち塞がりどこまでも邪魔をする。
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サターン聖の周囲に現れた4つの魔法陣ゲートを貫く禍々しい“黒いイナズマ”。どうやら残りの四星のお出ましらしい。
これはさすがにルフィでも分が悪い。脱出が間に合うのか、それとも配信がはじまるのか、時間との戦いだ。次回は休載のため続きは二週間後。盛り上がってきたねェ!
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ところで・・・だ、
ベガパンクって本当に死んだんだろうか。
「血統因子」や「クローン技術」に秀でた科学者で、ここでは「人工臓器」も作られている。見た目がまったく同じ複製体がいてもおかしくない。殺されたステラは影武者かもしれない。
また、正シャカが“一個人”ベガパンクとしてドラゴンと話をしていたことが、僕はずっと気になっていて、今回ドラゴンがそのことを思い出すのもシャカのことだった。
どの段階からかは分からないが、ベガパンクのオリジナルとしての存在はシャカなのであって、本体ステラの姿をした個体は対外的なスポークスマンとしてのベガパンクたちの傀儡なのではなかったのだろうか。
そのシャカも、早々に欲ヨークに狙撃されたが、サテライトたちはもとより人間ではないので、頭部に重要な器官が収納されているとは限らない。もしくはシャカの中にオリジナルベガパンクが入っていた可能性もあるかな。
ともかく、姿かたちはどうあれ、ベガパンク本体ステラは生きている気がするんだよなぁ。
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ちなみにステラとサテライトたちは一日一回体験と知識を同期させているということだが、それぞれ得意な事柄や性格が異なるので、同じ情報を共有しても考え方や発想の飛躍がそれぞれ異なり、より多角的な成果が得られるということは、共有されるのは五感で得たすべての情報ではなく特定の情報に限られるということなんだろう。すべてを共有したらいずれ全員が同じ性格に矯正されてしまうだろうからな。
だからヨークは密かに裏切りを企てることができたし、政府の役人を囚えたことも秘匿できたのだ。今回のビデオレターの配信を止める方法だって、ヨークが知っているとは限らないだろう。
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どうなるのか非常に楽しみだ。今回は妄想多め(ってか、ほとんど)でお送りしました。
扉絵シリーズ第26弾については、また今度。