ONEPIECE 870 「訣別」
怒りに任せてベッジの大頭目ビッグ・ファーザーを殴りつけるママの拳は激しく重い。
大砲の攻撃くらい物ともしない大頭目が、為す術なくHPを削られてゆく。
実の娘であるシフォンが「親子の情」に訴えても、ママに嫌われているシフォンでは逆効果だった。
まぁ、そもそも嫌われている理由はシフォンにしてみれば理不尽でひたすら気の毒なことだが、それも踏まえた上で暗殺計画に加担しておいて、いざ失敗したら「許して」というのも虫の良い話だ。
籠城するにも分が悪い。もう八方塞がりかと思われたが、もともと体内に兵隊や武装を格納できる「シロシロの実」の城塞人間であるベッジひとりを抱えて、シーザーが飛んで逃げるという方法が残されていた。
大頭目の周囲はすでにママの子供たちに取り囲まれ、無数の銃砲や能力者の攻撃が、大頭目の崩壊を今や遅しと待ち構えている。外に出たら、その瞬間に蜂の巣になることは目に見えていたが、
自らの失策で危機を招いた汚名返上と、裏切ったビッグ・マムへの報復。そして何より、自分たちを殺したいほど憎んでいるはずの、サンジの意思により救出されたことを知ってしまったジャッジの「父の情」が、そこには在ったと僕は考える。
ずっと「落ちこぼれ」だと思っていたサンジに助けられたからといって、感情のないイチ・ニ・ヨンジならば報恩など考えもしないだろう。
ママに裏切られて涙を流したのも、サンジの真意を聞き質したのも、そもそも、役立たずの幼少のサンジを殺さずに王族と同じ食事を与え続けたことも、「自分との血縁を口外するな」と言いつつも出奔を見逃したことも、これらすべてジャッジに「情」があったからに他ならない。
そして今、安っぽい情に流されるのではなく、確かな信念に基づいて生きているサンジを見た。それを教えたのは自分ではなく、父親としての自分は明確に拒絶されたことに、ジャッジには思うところがあったはずである。
841話のレビューで僕は、幼少のサンジへの仕打ちの中に「サンジを守ろうとする意志が見え隠れしている」と書いたが、当時ジャッジがそれを意識していたかどうかはともかく、今のサンジとゼフの関係性にかつて自分が思い描いたことがある父子関係を垣間見たのかもしれない。
立派に育った息子に対し、おそらくジャッジはこれまでの自分を恥じたのだ。
これで、ジャッジが拘り続ける北の海の制覇を諦めるかというと、それは全く別の問題だと思うが、
さぁ、役割は決まった。いざ逃走開始というところで、
当初の任務は全部果たしたのだから、戦わずに逃げることを考えろ、というナミの至極もっともな説得が全く役に立たなかったことになるが、
一連のナミの発言は、作品的に俯瞰で見ると、ジャッジたちにサンジの気持ちを知らせる役割が第一義だったと思うので、ルフィがそれに従わないのは・・・まぁ仕方ないだろう。
ジェルマの装備は空を飛べるし、サンジはたぶんルフィくらいなら抱えて空を走れるが、ルフィは戦う気満々だ。
逃げるのか、それとも戦うのか。この修羅場・・・どう切り抜ける!?
さて、
834話「おれの夢」で、ペコムズを始末した(つもりの)際、
この時ベッジはペコムズに、ママ暗殺計画への協力を持ちかけた。しかし、たとえ殺されようとも恩義や忠誠心を守る事のほうが大事と考えたペコムズの義理堅さを、「必要以上に情に厚いと、この世界で大成しないし、どのみち生きてゆけない」と言ったのだ。
ママに対しそこまでの忠誠を誓いながら、ゾウでは、組織において「絶対」であるべきママの命令を、個人的な情で放棄したことも、「義理堅さ」というペコムズの甘さを象徴していると、ベッジは言った。
ところが、「人情なんかクソの役にも立たねェ」と豪語するそのベッジが、今、我が身を盾にして連合軍すべてを守ろうとしている。
かつてのベッジであれば、連合軍の約束事などあっさり反故にして、もっとも大事な家族と部下を連れ、自分だけでさっさと逃げただろう。
愛する妻と子という「守るべき存在」ができて、考えが変わった、ベッジの中に「情」が生まれたというのか。
ルフィたちを外に放り出せば自分たちが助かる可能性が少しでも上がるハズだが、今ベッジがそれをしない理由は、いったい何だ?
あと余談だが:
シーザーが、ジャッジのことを昔から知っているような口ぶりだ。
ジャッジは昔、ベガパンクと一緒に研究をしていた。ベガパンクが政府に引き抜かれ、そこで袂を分かったジャッジがベガパンクの「血統因子」理論を独自に特化発展させたのが、ジェルマのクローン技術やコーディネーターであることは間違いないだろう。
また、シーザーは政府の研究所でベガパンクと一緒だった過去があり、シーザーが作り出した人造悪魔の実SMILEにも「血統因子」の理論が応用されている。
ベガパンクが政府の監視下に入ったときに、ジャッジは政府の手から逃れたらしいので、シーザーと知り合うとしたらそれ以前、同じ研究チームにシーザーも居たと考えるのが自然かもしれない。
だが、同じチームで研究したのであれば、「血統因子」についてシーザーはもっと理解が深くても良いはずだ。
ベガパンクが作った人造悪魔の実の見本があったのに、SMILEがあまりにも不完全なのはなぜだ。
自分の方がより優れた科学者であるというプライドと対抗心が、人造悪魔の実をより強力により悪魔的に改良(?)するために、ベガパンクには製造できないSADという独自の技術をつぎ込んだ可能性はあるが、初期から「血統因子」に関わっていたのなら、例えばジャッジが妻の母胎に施したように、遺伝子操作を行うことで、人間の巨人化についてももう少し成果が出せたのではないかと思わずにはいられない。
いったいシーザーとジャッジはどういう経緯で顔見知りなのだろうか。
もちろん同業なのだから、単に学会で顔を合わせたことがあるだけの間柄、ということもあるだろうが・・・。
Comment
あれ?
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城内自在空間のベッジがルフィたちを放り出す決断をしないのは確かに不思議ですな。心臓握ってシーザーに協力の強要はできるから、逃亡の段階で実行して別の的を増やしてやれば生存確率は確かに上がりそうなものを ……情云々よりも部下の手前、仮初だろうが連合組んだ者へのケジメというか、ジャッジも言ってた悪党としての仁義やプライドと介錯するのが妥当か
ナミの説得馬耳東風なルフィについては、クラッカーの時にも「本気で戦っちゃだめよ→半日間全力バトル」って流れだったから、まあお約束というか天丼というかw
捕虜という不利な立場で計画に無理矢理荷担させられたブリュレの判断がボロクソに言われてたから、
自分の意思で謀反を黙っていたシフォンの命乞いには更に苛烈にツッコミが入るかなと思ってたら、意外にあっさり風味でしたね
確かに境遇が理不尽過ぎるからその同情も含めてなのかな
しかし立場の違いがあるとはいえ、モリア戦の最終局面で自分の一味を背負い、命を賭けて啖呵を切ったローラに比べると、やっぱり情けなさが否めない……
かつて出来損ないと蔑んだ息子
その息子が危険を犯して自分達を「血を分けた家族」だからと助けに来た
その上で改めて絶縁を宣言された
ここに至って「実の家族から憎まれ、蔑まれ、『血縁』という無二の絆までもを否定される」事がどれだけ重たいことなのかようやく理解したという事なんでしょうな
だから何も言い返さず静かに絶縁を受け入れた
不思議な国のアリスが下地にありそうなので、逃げるに一票。玉手箱の爆発で期せずして逃亡成功的な感じかなあと。
拳が大きければ威力が増す
身体が小さくなれば浮遊できる
相変わらず質量は無視ですか…
逃げるのか、戦うのか!?
どうなるんでしょうかね…。
ハチャメチャの出たとこ勝負になったりなんかしてと(汗
どうしようもない人でなし共が自分の中の「情」に気づく回だったんでしょうかね、ここしばらくは